2006年8月20日日曜日

the SUN

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 18日。名古屋のシネマスコーレでのメインプログラムの最終日。1回目も2回目も立ち見の状態。100人程度の小さな映画館だけど立ち見が続くのだからすごい。

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 漆黒のパンフレットの表紙に深緋に近い赤の帯があり金箔型押しをイメージした「The SUN」のタイトルが書かれている。表紙を一枚めくると裏面に「彼はあらゆる屈辱を引き受け、苦々しい治療薬をすべて飲み込むことを選んだのだ。」というアレクサンドル・ソクローフ監督の言葉があり、渋紙色をした和紙をイメージした内表紙には水墨画の桜。その中心に漆黒の題字の「太陽」と力強く書かれている。
 重く落ち着いた色調に力強さと美しさを感じる。
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 映画は気品のある防空壕でのたった一人の質素な朝食風景で始まる。質素ではあるけどもそれは高貴な人の食事ということがわかる。それが1945年の8月だからだ。20世紀の独裁者を描くソクローフの4部作の3作目という目で見ればこの人はいったい何なのだと思うに違いない。主人は侍従の言葉に「あっ、そう」と心あらずのような言葉を返し、軍人の集まる会議では和歌で心を語り、研究所では白衣をまといカニなどの海洋生物に心をはせる様は現実の時間と違う世界にいる人のよう。
 まるで非現実的な世界だけれども、僕らには本当にそうだったかもしれないと思わせる。何しろ主人公は実在した人物で「あっ、そう」という語り方はよく聞いたことばだったから。
 鳥が泳ぐような怪物的なB29や魚が降り注ぐような爆弾や黒い炎は非現実だし、転寝からさめると戦後になっているような映像表現は演劇的であり一人芝居のよう。
 しかし、非現実的な世界と人物を演じておりながら、時代考証と人物観察が完璧なためリアリティがあり現実的である。だからより、彼に関心が行くし好きになっていく。そして、この話は事実なのかも知れないと思えてしまう。
 セピア色した質素な一室と中年男性の映像にもかかわらず素敵に見えてしまうのは彼が高貴だからかもしれない。それは監督の意図するところかもしれない。素敵な映像美だった。

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